敷金をめぐる苦情・相談
アパートやマンションなどを借りたことのある方なら経験していると思いますが、退去するとき畳の表替えやクロスの張替えなど、いわゆる「原状回 復」を行い、その費用と差し引きで敷金の精算をしたと思います。この「原状回復」と敷金の精算について、近年国民生活センターなどに寄せられる苦情・相談 の件数が増加しています。平成14年度は全国で5千件以上にものぼり、東京都ではこの原状回復について都議会で条例を作成し、平成16年度中にも実施する 方針を打ち出しました(平成16年2月)。苦情・相談の内容はさまざまですが、ケースによってはクロスや畳の張替え、設備の交換にいたるまで費用をすべて 請求され、敷金から請求金額がオーバーした、といったものもあります。
では原状回復について何か基準はないのか?ということですが、平成10年に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発行(平成16年2 月改訂)しており、法的な規制ではありませんが、先述の東京都もこのガイドラインを参考にして条例を作成するという方針も出しており、また訴訟での判例を 見ても、ガイドラインとほぼ同じ解釈をしていることから、このガイドラインを基準とするのがよいと思われます。(参照記事:朝日新聞HP平成16年2月6 日)
そこでこのガイドラインの大まかな概要をまとめてみましたので、いままで敷金の精算について疑問を持っていた借主の方、また貸主の方にも知っていただきたいと思います。
①「家賃」の捉え方
退去の際には、部屋を新品の状態に戻して明け渡さなければいけないと思っている借主の方がいらっしゃると思いますが、まずはじめに認識していただ きたいのが「家賃」というのは、大きくいえば「部屋」を借りる賃料ですが、この「部屋」というものには設備や壁・床など、各部分も含めて賃料を払っている のであり、当然借りている期間が長ければそれなりに劣化します。この「劣化・損耗」を前提として家賃を払っていることを念頭においてください。ちょっとわ かりづらい例えかもしれませんが、レンタルショップでCDやビデオを借りたときにレンタル料を払いますが、まさか返却するときに新品の状態に戻して返すは ずはありませんよね。故意や過失で壊した場合は別ですが、基本的にレンタルショップは貸し出しをすれば劣化するのを前提でレンタル代をいただくのです。こ れをアパートの賃貸に当てはめてみると、通常の劣化・損耗の部分の負担は、毎月の家賃に含まれているといえます。貸主の方は、逆に毎月の家賃収入の中に通常の劣化部分の修繕費が含まれている、という捉え方が必要になってきます。
②借主の負担するべき修繕「原状回復」の定義
ガイドラインでは、まず劣化・損耗の定義を下の3つに区分したうえで、借主が負担するべき修繕、すなわち「原状回復」は、(3)の部分であり、(1)と(2)は貸主が負担するべきものとしています。
(1)建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
(2)賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
(3)賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
つまり「原状回復」とは、全部において借主が借りたときの状態に戻すことではないということです。
上記の区分をもとに、建物価値と時間経過との関係をグラフに当てはめると、下のようになります。
G:退去時に古くなった設備等を最新のものに取り替える等、価値を増大させるような修繕等
例)エアコンを最新のものに取り替える等
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの(経年変化・通常損耗)
例)クロスや畳などの、経年変化・通常の使用によるによる変色(日焼け・軽度のタバコのヤニ等)
通常の住まい・使用で劣化したものについては、基本的には毎月の家賃の中に含まれているものとします。
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもの(故意・過失・善管注意義務違反その他)
例)重度のタバコのヤニ、壁等にあけた釘穴等
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
例)建物構造上の原因による結露で発生したカビを放置していた場合等(カビが発生した段階で貸主に通知した場合は、貸主の負担)
A(+G):建物価値の減少の区分としてはAに該当するものの、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
例)消毒など、業者による専門的なクリーニング等
③経過年数の考え方
先述のBやA(+B)のような、過失などによって傷つけてしまったケースでは、借主が負担するべき原状回復義務となりますが、ただし対象となる部位に対して、必ずしも100%借主が負担する、ということにはなりません。
なぜなら、例えば過失によって傷つけてしまったクロスを張り替えるとしても、もともとそのクロスは傷をつけなくても、一定の期間が経過すればそれなりに劣 化しているはずであり、その場合は先述のAの経年劣化とも捉えることができます。よって借主の負担とする割合は、クロスの劣化の程度によって減らされるべ きです。このように部材や設備によって、耐久性のあるもの・ないものといった区別をしたうえで、減価償却法をもとに負担割合を減らしていきます。
大まかな区分と、負担割合のグラフは以下のようになります。
○経過年数を考慮しないもの
・フローリングなど、長期間の使用に耐えられるもの
・襖紙や畳表など、価値の減少が大きいもの
○経過年数6年で残存価値10%とするもの
・クロスやカーペット、畳床など、比較的短期間で劣化・損耗すると考えられるもの
○経過年数8年で残存価値10%とするもの
・ボイラーやエアコンなど、比較的長期間で劣化・損耗すると考えられるもの
④借主の負担対象範囲
クロスを例にすると、過失で傷つけてしまった場合、傷つけた一部分だけを張り替えたのでは、周りのクロスと色合いなどバランスが悪くなります。ただ、だか らといってその部屋全面というのでは、結果的に新品の状態に戻すことになり、グレードアップしたのと同じ状態になってしまいます。つまり原状回復以上の利 益を貸主が得ることになり、これを借主がすべて負担するのは妥当ではありません。そこで原状回復として適当なラインは、全面ではなく傷をつけた壁の面のみ 全部の張替え費用を、経過年数により負担割合を減らしたうえで負担するということになります。
⑤特約条項について
借主が修繕費用をすべて負担するなどといった特約をつけるなど、賃貸借契約書をよく見るといろいろな特約がついている場合あります。しかし過去の判例など を見ると、先に述べたガイドラインと比べて度を越えて借主が不利になるような特約は認められていません。このことを借主も貸主も十分理解したうえで契約す ることが必要です。また貸主は、このガイドラインが基準になることを前提にアパート経営をしていく必要があります。
もっと詳しく知りたい、という方は当社までお問い合わせください。TEL0172-39-7071 e-mail:yho@real-takken.com
国土交通省ホームページ http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/kaihukugaido.htm
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は(財)不動産適正取引推進機構にて購入することが出来ます。(消費税込900円)TEL03-3435-8111 http://www.retio.or.jp/